◆なぜインドは中国との宇宙開発協力に踏み切ったのか
平沼先生とは、色々な機会にご一緒させていただいているが、私の一番敬愛する、日本を代表する本当に骨のある、真っ当な政治を志しておられる先生だと思っている。その先生からお呼びがかかり、喜んで参上した。
周知のようにインドは大変親日的な国で、東京裁判ではパール判事が日本の立場を弁護した。またチャンドラ・ボースを初めとするインド独立の志士を当時の日本人は支援した。今でもインドは日本に大変好意的なお国柄であるが、インドについて日本ではマスコミも十分報道しない。そこで本日は、インドと中国を対比しつつ、日本にとって今後インドとの関係をどう展開していくべきか、ということを中心に話をしたい。
この五月末、インドのムガジー国防大臣が来日して、インドが中国と宇宙開発分野で協力するということを華々しく打ち上げた。宇宙開発と言えば、三年前と昨年、中国が神舟五号と六号を有人宇宙飛行で相次いで成功させたことが強く印象に残っている。日本がH2ロケットの打ち上げ等で何かと不具合が続いている一方、中国が宇宙開発の分野で日本を凌駕する実力を付けてきた。
実はインドも、二〇〇八年までに月に無人探査機を打ち上げるチャンドラヤン計画を進めている。中国も二〇〇八年を月への無人探査機打ち上げの目標年と位置付けている。インドはいわば中国を見習い、独自の宇宙開発のみならず、外貨獲得の手段として、通信衛星や気象探査衛星などの衛星打ち上げビジネスを過去十二回にわたって成功させてきたが、これは日本から見ると大変高い水準だと言わざるを得ない。
では、なぜインドは中国と宇宙開発で手を結ぶことにしたのだろうか。その背景には、エネルギー開発や食糧確保の分野同様、宇宙開発分野でも中国とインドが様々な局面でライバル関係になっているという事情がある。特に経済発展と人口爆発を視野に置くと、インドは中国とぶつかる局面が大変多くなっている。一方、両国の間ではインド洋を舞台に、お互いの海軍力が拮抗するという厳しい状況が続いている。
そうした中でインドは最近、様々な資源開発の入札等で優位に展開していた事業が、後からやってきた中国に次々にお株を奪われ続けている。実はムガジー国防大臣が日本に来る直前、インドのエネルギー担当大臣が訪中し、中国に折れる形で、中国と協力して資源開発に共同入札したいとの申し出を行った。一方、宇宙開発分野でもインドと中国は各国のロケット打ち上げビジネスの受注合戦を繰り広げており、一時期インドが相当中国を猛追していたが、この所、少しインドが負け込むという状況が現れた。そこで宇宙開発分野でも、インドが折れる形で中国と協力するという流れになったのである。
他方、アメリカやアジアの一部には今、中国とインドの宇宙開発競争が世界にとって脅威になるのではないかとの懸念が生じている。特にアメリカでは、両国の宇宙開発競争、あるいは中国の軍事的増強に対する脅威論が根強くあり、国防白書でも中国脅威論が強く打ち出された。今回インドが中国との宇宙開発協力をわざわざ日本でアピールした背景には、中国をある意味で牽制する、中国脅威論をある程度薄める、といった狙いもあったのではないかと思われる。
◆インドは「宇宙大国」を目指している
今、世界の人口は六十五億と言われているが、今世紀半ば過ぎには百億になると言われており、その大半がインド人と中国人である。中国は十三億と公称しているが実際は十六億はいると言われている。しかし、実は人口増加率はインドの方が中国より遙かに大きい。それ故、この二つの人口超大国が自国民を食わせていくことができるかどうか、ということは大変な問題なのである。
そうした中で、資源探査衛星については日本が世界に貢献できる分野として期待されていたが、失敗が相次ぎ、その空白状態にインドが入り込んで行った。インドに宇宙研究機構(ISRO)という国家機関があるが、カルトサット一号を初め、過去十二回連続して探査衛星の打ち上げに成功した。打ち上げ成功率では、もう日本は及ばない状況になっている。だからインドは今回も、日本の通信・気象衛星等の打ち上げに関して熱心に売り込みを行った。
インドのタミルナド州にスリハリコタ宇宙ロケットセンターがある。移動式の打ち上げ発射台を備えているが、同時に二台の衛星を搭載したロケットを打ち上げることに成功した。その意味で、インドは新しい技術開発にも成功しており、シン首相は、「われわれは宇宙大国をめざす」と大見得を切っている。
インドは隣国のパキスタンとの間で核開発競争を続けており、アグニ三号という地対地長距離ミサイルの実験も間もなく行うと言われている。これは射程距離三千キロのミサイルで、パキスタンのみならず中国全土を射程内に収める力を持っている。つまり、中国にとってもインドは放置できないわけである。しかし今のところ、インドと中国は盛んに協力関係をアピールするという状況が続いている。
先行する中国は、衛星打ち上げビジネスで外貨を獲得しており、日本を蹴落としてしまった感が強い。昨年も中国はブラジルと協力して、ナイジェリア政府から通信衛星の製造と打ち上げを共同受注した。また中国はEU(欧州連合)初の衛星打ち上げの契約も獲得した。一方、インドはドイツやベルギー、韓国の通信衛星の打ち上げビジネスを成功させた。イタリアの通信衛星を打ち上げる契約も取った。ロシアやインドネシアの打ち上げビジネスも受注しており、中国に「追いつけ、追い越せ」と必死である。実はインドはアメリカのNASA(航空宇宙局)からも月面探査機の打ち上げビジネスを受注した。
このように宇宙開発分野では、中国とインドは激しい競争を展開していたが、今互いに宇宙開発ビジネスのシェアを共有しようという流れに変わってきた。今回のムガジー国防大臣の来日の機会に、そうした動きを日本を通じて世界にアピールしたとも言える。その意味で、インドはしたたかな宇宙ビジネスを展開しているわけである。
◆エネルギー分野で中国にすり寄るインド
エネルギー分野について言うと、インドはかなり状況が厳しく、中国にすり寄り始めている。今年一月、インドのアイアール石油大臣が訪中し、両国間でエネルギー開発に関する共同プロジェクトの調印を行った。中国は日本との間では東シナ海の天然ガス開発をめぐる緊張関係が高まっているが、インドやアフリカや中南米の国々との間では相次ぐ共同開発計画を進めている。
今、原油価格はバレル当たり七〇ドルを超えているが、これはインドにとって大変厳しい。インドには鉄鉱石初め様々な資源はあるが、原油及び天然ガスは国内需要の七〇%を海外に依存しているからだ。その意味で、日本と共通する部分がある。
インドは資源開発やその落札競争で、これまでアフリカや中南米等で中国と競い合ってきたが、最近、外貨保有高が世界ナンバーワンに躍り出た中国に負けることが多くなった。中国は昨年、アメリカの石油大手ユノカルに買収攻勢を仕掛け、大変高い値段で落札した。そのため、石油業界の中では、中国はいつまで外貨が保つかという懸念も出ているが、しかし中国は世界からエネルギーを買い続けなければ経済発展が維持できない。経済発展を維持できなければ、国民の政府に対する信頼を維持できない。だから金に糸目を付けない状況になるわけで、それがインドにとって大変な脅威となっている。
インドは過去二年、カザフスタンやエクアドルやアンゴラ等の油田開発の国際入札で、中国企業に連戦連敗し続け、対応が困難になっていた。その結果、中国にすり寄り始めたわけである。アイアール石油大臣の訪中の直前、実はナイジェリアで石油と天然ガスの国際入札が行われた。当初はインドの落札が予測されていたが、結局中国の中国海洋石油が落札した。これはインドにとって相当大きな衝撃だった。
さらに衝撃だったのは、ミャンマーからの天然ガスの供給がストップしたことだ。インドはミャンマーが好意的だと踏んでおり、ミャンマーの天然ガスをパイプラインでインドに引いてくる大型プロジェクトの契約も纏まっていた。だが、後からやって来た中国の国営石油会社のペトロチャイナが、賄賂合戦によってその契約を覆した。まだインド政府は諦めていないようだが、このまま中国と競争を続けてもとても歯が立たない。
今の経済成長が続けば、いずれ中国とインドだけで世界のエネルギー供給量の三五%を消費してしまう。それ故、二つのエネルギー消費大国が手を結び、供給側と有利な条件で交渉を進めることができれば、両国にとってメリットがあるのではないかとインドは考え、その方向へ軌道修正を図っている。中国もそれには前向きの反応を示している。シリア、スーダン等の油田開発プロジェクトは、これまで中国が圧倒的な強みを誇っていたが、このプロジェクトにインドが共同開発者として参入することを認める決定を下した。
◆「チンディヤ」構想とは何か
数年前まで、インドの最大の貿易相手国、特に輸出の相手国は日本だった。ところが二〇〇二年を境に、インドの貿易相手国としては中国が日本を抜き去った。その背景にはインドと中国の首脳同士の交流の活発化がある。
例えば昨年、小泉総理がインドを訪問したが、その十日前、中国の温家宝首相がインドを訪問し、経済、エネルギー、文化などの協力協定を調印した。もともと小泉総理の訪印計画の方が先に決まっていたが、中国はインドと日本の関係があまり緊密にならないように、小泉総理のインド訪問を骨抜きにすることを戦略的に考えたのだと思う。
温家宝首相は孔子研究センターの開所式にも臨み、「チンディヤ」構想をぶち上げた。チンディヤというのはチャイナとインディアの合成語で、両国が一体化するという構想である。特にIT、家電、その他の分野でハードに強い中国とソフトに強いインドが手を結べば鬼に金棒だという発想である。温家宝首相は自らインド各地を訪問して、友好関係を強烈にアピールした。インドのメディアやマスコミも大々的に中国特集を組み、大変な中国ブームが巻き起こった。
そういう「中国フィーバー」の余韻がまだ燃え盛っている時に小泉総理はインドを訪問した。アピールできるような内容のない訪問でもあったため、小泉総理の訪問は全く話題にならなかった。これは、単に小泉総理がインドでさほどの評価を受けなかったという話ではなく、日本の首脳外交を潰そうという中国の戦略的な動きに、日本が全く関心を寄せていなかったという問題である。もちろん、日本と歴史的な深い繋がりがあり、日本に目を向けて欲しいと思っているインドに対して、日本はその期待に見合った関心や投資を行っていない。その結果、中国にどんどん「おいしいとこ取り」されているわけだ。
明日から上海で中国が主導権を握る上海協力会議が開催される。これを通して中国は、中央アジアの国々など旧ソ連邦の構成国と協力関係を深めているが、今日、中国はインドとイランをオブザーバーとして招いている。つまり中国は、インドを巻き込み、ロシアも味方に付け、日本の存在感を打ち消し、日本を端に追いやろうとする動きを戦略的に行っている。それに対して日本は受け身の外交に終始しているわけである。
◆ゴールドマンサックスの「市場占領計画」
ところで、旧長銀が新生銀行に売却された時のフィナンシャル・アドバイザーであったゴールドマンサックスがやはりインドと中国に大変力を入れている。同社の現会長兼CEOのヘンリー・ポールソンという人物は、五月末にブッシュ大統領から次期財務長官に指名を受けたばかりである。ポールソンは、日本の金融界とも太いパイプを持っているということばかりが日本では報道されるが、彼が最も力を入れて投資事業に邁進してきたのは中国とインドである。二〇〇二年にゴールドマンサックスは長期経済予測を発表したが、それによると、二〇三九年に中国がGNPでアメリカを抜いて世界最大の経済大国になる。ナンバーツーがアメリカで、インドはドイツを抜いて第三位になる。四位がドイツで、日本は五位になっている。
ポールソン自身、過去二十年間、ほぼ毎月インドと中国を訪問している。最近、香港市場で上場を果たした中国銀行のIPO(新規株式公開)の主幹事を引き受けたのもゴールドマンサックスであるが、同社は中国初の携帯電話会社チャイナモバイルや中国最大の保険会社・平安保険、あるいは先に述べたペトロチャイナなどの上場やIPOの引き受けも行っている。まさに中国の一番おいしい所をゴールドマンサックスが押さえている。その手法は、実は日本で長銀買収の時に得たノウハウをそのまま中国で実践していると言える。
では、ポールソンの強み、戦略とは何か。中国で成功するには、中国人に自分たちの価値観を理解させる必要があるが、理解させるためには、ビジネスの話だけではダメだ。中国人の歴史観や文化観に踏み込んで行かなければいけない。そういうことをポールソン自身が言っている。ゴールドマンサックスは結果的に、中国の国営企業の上場、中国政府の国債発行の手数料等で莫大な利益を挙げている。だが、そこに到る前段階では、中国の環境問題に対して、アメリカの環境保護団体を使い、働きかけを行っている。
ポールソン自身、ナチュラル・コンサーバンシーという世界最大の環境保護団体の会長を務めており、その立場で、江沢民や朱鎔基にも随分と食い込んでいた。つまり中国の環境問題に対して、世界から集めたファンドのお金で中国人の関心をつかむ、という戦略である。そういうステップを経て、彼らは中国やインドに入っていく。ある意味でゴールドマンサックスは、日本を踏み台にして中国、そしてインドをどう自分たちのマーケットとして食い尽くすか、という「市場占領計画」に近いものを立てている。
◆日本は環境・技術を活用した戦略的な外交を展開せよ
そこで、日本は中国やインドをどのように位置付け、関わるべきかという問題である。
今後、中国とインドがどういう形で超大国に発展していくにしても、その鍵を握るのは日本の技術力である。とりわけ中国の環境問題は大変深刻で、今年の春先にも黄砂が東京にまで降り注いだし、北京や上海の郊外まで砂漠化が進んでいる。当然中国人の健康にも大変深刻な被害をもたらしている。二〇〇八年八月八日、北京オリンピックの開会が予定されているが、胡錦濤政権が環境問題に道筋を付けないことにはオリンピックどころではない。中国国内でもオリンピック返上論が出ている有り様である。
また、環境問題から来る農村部の疲弊も深刻である。水もないし、汚染された状況で作られた野菜は「毒菜」と呼ばれている。そういう状況を解決するためには、日本がかつて公害を克服したノウハウ、技術の蓄積が必要であり、実はこれが今、対中ODAの主流となりつつある。日本はこれをもっと政策的、あるいはビジネス上も中国に高く売ることを考えるべきである。次世代の環境技術は日本が大変進んでおり、アメリカも適わない部分がある。その意味では、日本が「第三の道」として、アメリカにも中国にも属さない独自の外交を展開できる可能性が日本の技術力にはある。
一方、アジアの中で今、中国の影響力は大変大きくなっており、タイを初めその他のアジアの国々も、ほとんど「日本の傘の下」から「中国の傘の下」に自ら好んで入るという状況がある。そこには、中国がタイ、カンボジア、ラオス、ベトナムなどから大量の米や野菜を買ってくれるという事情もある。つまり、人口が有する購買力、そしてメイド・イン・チャイナの安い商品がアメリカ初め世界中で売れることによって、外貨がどんどん入ってきて、中国は世界最大の外貨保有国になった。それを背景に中国は、食料やエネルギーをどんどん買い進めており、アジアはどんどん中国に吸収され始めている。
これまで日本はアジア外交を標榜し、多大な経済支援や技術協力をアジア諸国にしてきたが、先般の国連安保理常任理事国入りの外交キャンペーンでは、アジア諸国の中で日本を支持してくれた国はわずか三カ国しかなかった。自主的に日本を積極的に応援してくれたのはアフガニスタンのみで、フィリピン、タイ、マレーシアなどは日本に協力しなかった。日本のアジア外交は根底から崩壊しているのではないかと思われる状況がある。しかし、マスコミも国会もそういう問題には触れず、事前の運動が不十分だったのではないかといった議論でお茶を濁してきた。
ともあれ、中国もインドも持てる人口力と資源力をパワーに、今や水面下で手を結び、公の場でアメリカや日本に挑戦するという動きを進めている。その象徴的な動きが二〇〇八年の月への無人探査衛星の打ち上げであり、また通信・気象観測衛星の打ち上げビジネス等で両国が手を結んだことである。そうしたインドや中国の動きに対して、日本はあまりにも無関心過ぎるのではないか。
中国を牽制する意味でも、日本は是非ともインドとの関係を強化すべきである。また中国は環境問題の克服を喉から手が出るほど欲しがっているわけだから、それを歴史問題や靖国問題とは別の次元でいかに交渉材料に使うかを考えるべきである。場合によってはゴールドマンサックスなどを利用するぐらいの寝技が日本にも必要ではないかと考える。
《質疑応答》
●質問 国民の七割ほどが貧しいインドが、衛星打ち上げの成功率が日本よりも高いというのは一体いかなる理由によるのか。
○浜田 確かにインドではカースト制度が公的には撤廃されたが、まだその残滓が残っており、その意味でも大変格差が残っている。しかし全体の人口が大きいため、一握りの優秀な人材は大変優秀で、その一握りの優秀な頭脳に国がお金をかけて、手厚い教育を施している。しかも、インドの優秀な人材は、大概が欧米で高等教育を受けている。
アメリカの例えばワシントン郊外にある国立衛星研究所(NIH)やロスアラモスにある国立研究所等の優秀な大学や研究機関ではインド人が大きな力を発揮している。そういう人材が自国に戻ってきて、政府のバックアップを得て、宇宙開発も含め、国策として進めているビジネスに従事している。特にITのソフト開発は、年間三十万人規模でエンジニアをどんどん生み出しているが、これを百万人くらいに増やしていくという状況である。このまま行けば、確かに多数の貧しい人たちもいるが、徐々にその辺りが改善されていくだろう。
ちなみに、逆にその点が改善されなければ社会不安に繋がるということで、インド政府もアメリカやヨーロッパ、日本からのアウトソーシングの受注先となるべく大変力を入れている。その結果、アメリカの国内税庁も税務処理をみんなインドにアウトソーシングしている。またボーイングやマイクロソフトも、研究開発拠点をほとんどインドに設けている。そのため、徐々に底辺にも経済的な恩恵が行き渡りつつあるが、まだ道は遠い。二〇三九年になって日本を抜いたとしても、一人当たりの国民のGNPは日本より遙かに低い。
●質問 日本の企業は中国の会社と連携するよりは、同じ資本主義の国であるインドの会社と連携する方がましだと思うが、日本の経済界の流れは逆行しているように見える。また中国やインドを攻めるときは、官民連携の戦略会議のようなものを作って取り組んで行かないと太刀打ち出来ないのではないか。
○浜田 おっしゃる通りである。インドは大変ポテンシャルがあるし、官僚制度も経済システムも、イギリス植民地下にあったため、きちんとした法体系も中国と比べれば遙かにしっかりしている。その意味で、交渉やコミットメントがきちんと守られ、仕事の面では大変やりやすい環境でもあると思う。
ただ、そうした多面的な情報が日本では限られている。日本のメディアも、中国に関しては色々な報道がなされているが、インドの情報は限られている。また日本には、インドに理解を持つ人が、経済界にも政界にも若い学生の間にも少ない。日本からインドに留学している学生の数は、大学院も含めて数百人の単位だが、アメリカからインドに留学したり、短期のインターンシップで出かける学生は数千人の単位になっている。その意味でも、日本人のインドに対する理解は大変限られている。
元財務官の榊原さんが、慶応大学から早稲田に移ってインド経済研究所の所長になられたが、先を見るのが目敏い。これからはインドに日本も注目すべきだということで、大学でそういう研究所を立ち上げた。こうした動きが、もっと広がっていく必要がある。
●質問 一説によると北朝鮮より中国が解体する方が早いと言われている。賃金格差もさることながら、人権もないし、幹部が悪いことをしても全然取り締まれない。暴動は一日何カ所も起きている。その辺の問題はどうか。
○浜田 昨年だけでも、中国政府が認めている暴動が年間九万件近くあると言われている。特に農村部で土地を勝手に取られてしまうことに対する不平不満が原因で暴動が起こっている。表に出ない暴動を含めれば何十万件という規模で起こっているのではないか。そういう不平不満を中国は今は軍事力や強制力で抑えている。言ってみれば巨大な地震エネルギーが溜まっている。それが今後どういう形で噴出するか分からない。
その「ガス抜き」を昨春の反日デモのような形でやらないと、その不平不満が直接共産党政権に及ぶ確率は高い。長い中国の歴史を見てみると、いわば共産主義王朝が歴代王朝と同じように崩壊し、革命が起こる可能性はきわめて高い。今の中国も年間八千人近い公開銃殺が行われる死刑超大国で、人権が全く尊重されていないからである。
ただ、中国人には「長い物には巻かれろ」という発想もあるため、抵抗もなかなか力にならない。だから、物言わぬ八億から九億と言われる農民たちが、いつまで忍耐が続くかという問題でもある。昨年中国の教育省の幹部と話したときも、年間日本円にして約百四十円程度の健康保険料を払えない農民が八億以上いると言っていた。こういう人たちは生まれてから死ぬまで病気になっても一度も医者に診てもらうことができない。また最近の沿岸部の経済発展ブームがどんどん内陸部にも広まってきており、農地を工場のために勝手に幹部が収奪してしまう。そのことによって農村が疲弊し、結果的に食糧が自給できない。だから中国は三年前から食糧の緊急輸入をしている。米やトウモロコシを海外から買わないと国内の需要を満足させることはできないのだ。
その一方で、一部にミニホリエモンと呼ばれるような富裕層も生まれている。そういう人たちはお金に糸目を付けないで贅沢な生活を送っている。その格差たるやとても日本などの比ではない。そういう状況がそんなに長く続くということは有り得ないだろう。
●質問 インドと仲良くするということと同時に、世界の流れを見てみると、イスラム圏との付き合いも日本にとっては戦略的に重要ではないかと思うが、どう考えるべきか。
○浜田 日本はあらゆる神、八百万の神も受け入れるという類い希な宗教的な寛容性を持っている国であり、アラブ世界ともアメリカ以上に良好な関係を有している。例えばアメリカは現在、イランと交渉が直接できず、下手すると先制攻撃に踏み込むかも分からないという緊迫した状況にあるが、日本にはイランと直接交渉ができるパイプがある。その意味で、日本がその気になれば交渉カードとしてイスラム圏との関係を使うことは可能である。ただ、日本がインドに対して理解がないのと同じように、日本国内ではイスラムに対する理解があまりない。過激なテロや原理主義など、怖いイメージばかりがマスコミを通じて流れている。また宗教の持つ過激さと言う意味で、イスラム教には日本の宗教的寛容性とは対局にあるような部分もあるため、日本人は過敏に反応する傾向が多々ある。
だから、もう少しバランスの取れた理解を深めていくということがまず必要だと思う。もっと宗教教育というか、世界には様々な価値観があるということを、教育やメディアを通じて理解させていくことをしなければ、なかなか中東の国々とは本当の信頼関係が深まって行かないのではないか。(文責・正しい日本を創る会事務局)