◆中間選挙で共和党が敗北した三つの理由
米国議会の公聴会で証言する場合、その委員会に二十人も四十人も議員がいても、一人か二人しか出席しないということがよくあるので、これだけ大勢の方に参加していただき非常に光栄だ。外交政策の話をする前に、中間選挙の結果について少し言及したい。
さて、私は共和党員であり、今回の選挙結果には非常に胸を痛めている。しかし、確かに共和党は負けたが、民主党も決して勝ったとは言えないと思っている。また今回の選挙結果には、ちょっと腑に落ちないこともある。というのは、共和党が多数派だった二〇〇〇年の時点で国勢調査が行われ、それに基づき選挙区を書き換えた。つまり、共和党が多数党で居続けられるように、共和党に有利になるような区分けがされたのだが、にもかかわらず今回のような選挙結果になった。
では、なぜ共和党が負けたかというと、考えられる理由は三つある。第一にブッシュ大統領の不人気。これは政策の内容と言うよりも、大統領のスタイルが嫌われたということだ。つまり、同大統領には世論に動かされたのではなくて、自らさまざまな決定を行ってきたということを吹聴するきらいがある。国民はこれを「傲慢で頑固な態度」であると思うようになってきたのである。また、大統領には少数の非常に信頼を置いているアドバイザーのグループが存在するが、それ以外の助言には耳を傾けないのではないか、と思うようになった国民も増えている。そうした結果、「頑固で余り変革を好まない」という大統領のイメージが強まった。
第二は――これは一番目とも関係しているが――イラクにおける戦争が大変な状況になったことだ。一般の国民は全体的なイラクの状況を全く知らないが、イラクの成功は可能なのだろうかと考え始めている。これは全く理解できる。というのも、イラクは実際に遠いし、文化的にもアメリカとは全く違う。そうした中で、メディアは毎日色々な報道をしている。死傷者の数はイラク人の場合も米兵の場合もあるが、その結果、将来的な見通しが全くないまま、死傷者だけが増えているという印象が持たれるに至っている。
サダム・フセインを政権の座から降ろしたことは正しかったと思うが、大統領は時々刻々変化している現実に対して、より柔軟に調整して行くという態度を示し、そうした情報を国民に知らせて行くべきだった。問題の最たる例は、ラムズフェルド国防長官を選挙の翌日に更迭したことだ。このタイミングは、同長官とブッシュ大統領以外の米国民には理解できない。仮にそういうことをするのであれば、もっと早くやっておくべきだった。
第三番目にスキャンダル問題。三年間に及び、ジャック・アブラモフ氏周辺のロビイスト活動や様々な汚職に関する調査が行われてきた。また、議会で働いている若者たちに、妙なEメールを送っていた共和党議員の話も浮上した。党幹部がそういう行為をすることは許されないことであり、たとえ選挙でわれわれが不利になろうとも、処罰を受けさせるべきだった。
◆民主党の勝利は「期間限定付き」
今回の選挙によって民主党は議会で多数党になったが、これは「期間限定付き」だと私は見ている。なぜなら、まず二〇〇八年はブッシュ大統領は出ないから、彼がいかに人気がなくともそれは問題にはならないからだ。また二〇〇八年にはイラクの状況も改善し、イラクの独立性が高まり、米兵も数が減り、状況が良くなっていることをわれわれは望んでいる。共和党にとって不利な状況にはならないと思われる。
さらに、これから選挙まで二年あるが、議会の多数党が今は民主党になったので、そこの部分の責任が民主党には出てくる。例えばイラク戦争に関して、これまで民主党はブッシュ大統領に批判の鉾先を向けていれば良く、代案を提示する必要がなかった。しかし議会で多数党になったことで、今後二年間の民主党の役割は変わった。しかも、二〇〇八年には民主党の大統領候補も出馬するわけだから、選択肢の提示を回避できない。民主党が多数党であることはそんなに続かないと私が思うのはそうした理由による。私は共和党員なので、もちろんこうした見方には多分に希望的観測も入っている。
◆民主党優位下の米国の対日政策はどう変わるのか
次に、今後の議会が取り上げていくであろう問題で、日本に関係する部分について述べたい。
一つは通商政策である。ブッシュ大統領や共和党の多数派が考えていたように、貿易の自由化という方向を民主党指導部は模索しないだろう。民主党は、例えば雇用や環境、それ以外の色々な社会的な価値観に内向きになっている。それ故、もし中国が自国の通貨によって貿易を有利に運んでいるというような批判が出てきた場合、日本もそうではないのか、という声が共和党の時よりも少し強くなるのではないか。
また、対テロ戦争に関して(色々な法律を)議会が通過させたが、そのことに絡んで市民権を問題にするようなケースが今後は多くなろう。例えば、対テロ対策の一つとして国際電話の傍聴が検討されているが、この回答はまだ出ていない。民主党が多数党になった今、対テロ戦争は今後どうなるのかという懸念がある。これが日本に直接的な関係があるかどうかは分からないが、潜在的なテロリストを閉め出すなどの対策について、日米はかなり歩調を合わせているのではないか。
さらに、共和党の下で安全保障予算は非常に膨らんだが、民主党になったら、この予算を縮小すべきであるという政治的圧力が高まるだろう。その結果、日本も含めて同盟国がその分を負担すべきだという議論がまた起こってくることが予測される。殊にミサイル防衛に関して、民主党には疑問を持っている議員が多い。そうなると、日米の安全保障上の協力にも何らかの影響が起こるかもしれない。
◆米国と北朝鮮の二国間対話はナンセンス
一方、北朝鮮問題について民主党は、一九九四年の合意によって核物質の開発は凍結するという合意に達しているということや、ブッシュ大統領は北朝鮮と直接の対話をしていないということで、ブッシュ大統領を絶えず批判してきたが、これは全くナンセンスと言うしかない。北朝鮮問題のポイントは、北朝鮮の指導者が核兵器を手中にすると決めており、それをどうしても諦めないことにあるからだ。
それゆえ、北朝鮮問題は、会議に参加する人数を増やしたり、国連加盟国の全てが集まったとしても、解決できるものではない。だから、北朝鮮問題では大変なプレッシャーを受けることになる。ブッシュ大統領にも政治的な圧力が掛かるだろうと思われるが、アプローチは変えないものと思われる。
日本は北朝鮮から直接的な脅威に曝されており、その意味で世界でも類のない立場にある。そのため、もし二国間対話を北朝鮮と米国が行えば、日本の関心事項は十分反映されないのではないかとの懸念を持つのではないか。常識的に考えても、また日米同盟に鑑みても、一番影響を受けるであろう国を除いて二国間対話をするということは有り得ない。
これはブッシュ大統領や米国政府にとって非常に皮肉なことだが、ジム・ケリー国務次官補が二〇〇二年十月、平壌に飛んで直接対話をしたところから、北朝鮮の態度が硬化し、これだけの問題になったとも言える。つまり、その時の話し合いの中で、金正日が真実を語ったのは驚くべきことだったが、その真実は余りにも不穏なものだった。しかも、北朝鮮は事態改善のための手を何も打つことがなかったため、事態がこれだけ悪くなったのだ。
だから、私は北朝鮮と二国間の対話をすると危機がさらに深まるものと見ている。それで改善に向かった証左は今まで一度もない。せいぜいのところ、九四年の事態から悪くなってはいないではないかとか、九四年の事態から凍結されているではないか、ということしか言えない。つまり、事態が改善しているということは言えない。
しかし九四年に合意が行われたとは言っても、それ以降事態が安全になったということは言えない。九〇年代を通じて北朝鮮は世界で最も危険な技術を開発し続けてきたし、また韓国との二国間合意を踏みにじり、国連での他国間との合意も反故にした。だから、そうした現実を見ると、事態は九四年のまま凍結しているということも決して言えない。
◆日本こそはアジアの「責任ある利益関係者」
最後に、今後二、三年の米日中の関係について述べたい。
まず、ブッシュ政権の残りの期間で対中、対日政策が変わるとは全く思わない。ブッシュ大統領は頑固と言われるだけあって、変わることは有り得ない。ブッシュ大統領の思う方向に政策は動いていくと私は信じている。
日本について言うと、大統領と前首相とは本当に個人的な友情を培った。今までも日本の首相には非常に優秀な方たちがいたが、そういう関係は今までなかったのではないか。単なる個人的感情と言うことだけではなく、同時多発テロの直後、非常に難しい選択に直面していたブッシュ大統領にとって、個人的な友人が同盟国のトップに存在するということは大変ありがたかっただろうと思われる。同時に、そうした個人的な関係を実際に肉付けするだけの共通の価値観が両国間にはあったということでもある。
そうした共通の価値観とトップ同士の関係によって、米日は非常に難しい問題に対処することができた。米軍再編の議論も、大統領と首相の間に良好な関係があったので、良い形で話し合いが行われたと思っている。
同時に日本がグローバルな対テロ戦争において、自ら効果的な役割を果たし、貢献をして行こうという意志を示し、米国はその意志を支援する役割を負ったが、そうした役割を米国は誇りに思っている。つまり、日本は国際的な安全保障システムの単なる受け身の受益者ではなくて、自らも非常に難しい意志決定を行うという役割を果たすようになったが、それを米国は非常に歓迎し、また有り難いことだと感じている。これがレスポンシブル・ステイクホルダー(責任ある利益関係者)ということの意味でもある。
また、日米がそうした関係を構築し、またそういう行動を示していることは、ある種の標準を作ることとなった。つまり、もし将来中国がそうした関係を目指し、そういう役割を果たすつもりであれば、中国にもそうした標準を徹底していく一つの目安になるということだ。
今の中国はレスポンシブル・ステイクホルダーではない。国際的コミュニティーから単に利益を得ているだけで、それに対して解決策を提示することはなく、どんどん問題を起こしている。もちろん、敬意は払って行かなければいけないが、やはり中国に対しては率直な形で対峙して行くべきだろう。これは米国一カ国で為し得ることではなく、日本のような同盟国、またインドなどの協力も必要だ。インドは最近、戦略的パートナーとして大変注目されているが、米日が共有する価値観を共有してもらえると思っている。
短期的には中国が自らの見解を変えることはないだろう。だから、今の日本は一九三〇年代の状態と同じで、そうした状況はすぐには変わるまい。この数十年間、中国が自からの問題から国民の目をそらさせるには、日本は恰好の標的だった。
それに対してアメリカは、中国は日本を見習うべきであるというような発信をしている。また、日本こそがアジア、延いては世界における責任あるステイクホルダーであるということで日本を支援して行きたい。
《質疑応答》
●質問 「六カ国協議」の中で、日米は北朝鮮に対する金融制裁問題に関する作業部会の設立について合意していると言われるが、もし北朝鮮が然るべき譲歩をした場合、アメリカは金融制裁を解くオプションを持っているのか。
○イェーツ このような作業部会について合意してしまったのは馬鹿げたことだ。実際、アメリカは経済制裁をかけているわけではなく、北朝鮮の不法な活動に対してアメリカの法律を適用しているという状態なのだ。責任ある政府であれば、脅されたからと言って法律の適用を譲歩することはあり得ない。
私が思うに、この作業部会についての合意は、こうしたアメリカの措置に関して、北朝鮮と話し合いをすることにより、北朝鮮に説明の機会を与え、有利に事を運ぼうと考えたのではないか。もちろん、北朝鮮が自分たちがやっていることを正当化できるとは思わないが、本当の問題は核兵器開発である。経済制裁を解くとか解かないとかということを議論し出すと、そちらに気を取られてしまうので、これは間違いだったのではないかと思う。
仮にブッシュ政権がマネーロンダリングや偽札発行などの法を犯す行為に対して甘いアプローチを取るならば、共和党からも民主党からも激しい非難が起きるだろう。
●質問 核の抑止力について尋ねたい。もし日本に北朝鮮や中国が核攻撃をしてきた場合、アメリカはその報復として日米同盟に基づいてその国に対して仕返しをしてくれるのか。果たして自国民を犠牲にしてまで、日本国民を守る気があるのか。
○イェーツ アメリカの指導者が、その問題に真っ向から答えたくないという気持ちは私は理解できる。というのは、一つにはそれは仮定の話であり、またその仮定そのものは恐ろしいシナリオで、北朝鮮が核を使って日本を攻撃するというような状況は考えたくもないというのは本当のことだからである。
しかし仮定の状況として、もし日本が核攻撃を受けるようなことがあれば、米国民の命がたくさん失われないという状況は考えられない。だから米国としては、日米同盟がなかったとしても、多くの米国民の命が失われたということであれば、必ず報復するだろう。 とはいえ、アメリカが介入するまでじっと待っているというのは日本にとって好ましいとは思えない。この問題は日本ではなかなか話し合いにくいテーマであることはよく理解しているが、もし日本が責任ある世界の指導的な役割を果たす国家ということであるならば、自ら何らかの抑止力、報復力を考えていく必要があるのではないか。
●質問 アメリカは日本が核を持った方がいいと考えているということか。
○イェーツ そうすべきではないと思っているアメリカ人はたくさんいる。私もアメリカが核のコントロールを持っていることはいいことだと思っている。米国がその最終的な手段を握っていれば、危機がエスカレーションしていくその命運を握るのはアメリカだからである。しかし、先進的な民主主義国家であれば、この技術を手中にしたとしても私は怖くはない。この技術が非民主的な国家や途上国、まだ先進国の仲間入りをしていない国が持てばそれは怖い。
●質問 今の日本はアメリカが守ってくれないと核に対しては全く為す術がない。
○イェーツ 全くその通りだが、私は日米同盟は成立すると思っている。つまり、アメリカの日本に対する敬意、日本に対して今まで言ってきたことが偽物だとは思わない。
今のところ大変に不人気な政策ではあるが、二千三百万人しかいないイラク人を守るために、二千人の米兵が命を失っているという事実を思い起こしてほしい。もちろんそれをまたやりたいと思っているわけではないが、自由を守る為にわれわれはこういうこともやるという先例とは言える。世界で他にそういったことをする国はない。
●質問 日本は核を持たないが、アメリカの核を日本に持ち込む、つまり非核三原則を非核二原則にするという選択は、一つの現実的な選択肢であり、そうしたメッセージは北朝鮮に対する強い抑止力になるのではないか。
○イェーツ 抑止力のメッセージとして効果的であることには同意する。ただ、それは日本の意志として、日本が決定しなければいけないことである。つまり、アメリカがどうこう言って、日本に何かをさせるということではない。友人としてわれわれの見解を日本に伝えることはするが、民主主義国家である日本が、日本の主権の下に決定しなければいけない問題だ。
●質問 自民党の中川政調会長や麻生外務大臣が核の議論をすべきだと言っただけで自民党内でも政府内でも抗議がおきた。核の議論をすること自体が外交戦略上良くないということらしいが、議論すること自体が日米関係に悪影響を及ぼすとは思えない。その点はどうか。もう一点は、ヒラリー・クリントンに対する評価について聞きたい。
○イェーツ まず最初の質問だが、核兵器を持つかどうかという議論が起こったからと言って、米国が日本に対して懸念や恐怖を持つことはないと思われる。日本にとっては過去との訣別であり、かなり注目が集まるのだろうが、もし日本がそうした技術を持ったとしても、アメリカ人の多くが恐れることはないだろう。
また、核不拡散条約によって核不拡散が実際に実現したかと言うとそういうことはない。私の前のボスのチェイニー副大統領が言っていたように、そうした条約が出来れば、ルールに則って行動を律する九七%の国家に対しては効果があるかもしれないが、残りの三%に対しては何の効果もない。
次にヒラリー・クリントンについてだが、もし彼女が選挙に勝つことがあれば、安倍首相は、ジョージ・ブッシュとの関係のような温かい友情を育むことはできないのではないか。なぜなら、彼女は力はあるがフレンドリーで温かい人柄ではない。
共和党は、クリントンという政治的マシーンが非常に強力なことを忘れているわけではない。真剣に検討している。共和党でも民主党でもあれだけ資金を集めることが出来たのは彼女だけだ。お金は票を集められるわけだから、全く侮れない候補者であることは事実である。
●質問 仮にヒラリーが勝てば米国の対中政策は今とは大きく変わってしまうのではないか。それによって、日米同盟が影響を受けてしまう可能性があるのではないか。
○イェーツ そうした懸念は理解できる。しかし、私は民主党についていつも温かい励ましをしているわけではないが、少し彼らの立場を慮って言いたい。つまり、これは多少残念なことながら、クリントン政権後期の米国の台湾政策は、ブッシュ大統領の台湾政策よりも良かったということを指摘したい。クリントン政権の最後に、台湾問題のいかなる解決策も全て平和裏なものでなければいけないと同時に、台湾の国民が合意しなければいけないという議論があった。その最後の部分はすごく重要だと思う。しかし、私には全く理解できない理由によって、ブッシュ大統領はそこの部分を省いている。
とはいえ、民主党は台湾への兵器供給は減らすだろうし、抑止と言うよりも、中国と交渉するようにという圧力をかけるのではないか。(文責・正しい日本を創る会事務局)