◆硫黄島の戦いは何を教えているか

 私は長い間、北米におり、最近はホノルルの方で軍人を相手に仕事をしている。日米間では軍人同士の交流というものも行われているが、実際に私が自衛隊関係者に話を聞いてみると、米国の本音というものがなかなか日本の方に伝わっていないようである。そこで、今日は米軍の現場の声というものを交えながら話を進めたい。
 まず初めに、最近、『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』という硫黄島の戦いの映画が話題になったが、私は米海兵隊の将校を相手に、硫黄島の戦いで何を学ぶべきかということを話した。米軍の場合、戦史を大変重要視する。これを分析するセクションは何千人体制で、戦史を研究し今後どうするか、特に失敗要因を分析して将来に役立てている。
 硫黄島の戦いで、日本が学ぶべきものは多々あるが、まずこの戦いに突入したときの日本軍の状況はというと、フィリピンのレイテ沖海戦ですでに海軍が壊滅状態に陥っていた。艦艇はゼロ、航空機もほとんどゼロ、油も無かった。そういう状態で陸軍と海軍の陸戦隊だけで硫黄島を守ろうとした。つまり、初めから硫黄島で戦う部隊に対して補給や増援はできないという状況があった。これは続く沖縄戦もその他の島嶼をめぐる玉砕抵抗戦も同じで、この時点での日本はアメリカが本土へ来襲するのをある程度食い止めるため、時間稼ぎに出るしかなかったというのが実情だった。
 硫黄島の戦いでは日本軍は全滅した。世界の軍事常識では、部隊の半数弱の将兵が負傷・死亡した場合を「全滅」と呼ぶ。だが、硫黄島の戦いで日本軍は九八%が死んだ。一方、硫黄島の戦いは、米海兵隊にとっても空前絶後の戦死者、負傷者を出した。この戦歴があるから、海兵隊はなくならない。常に予算削減の対象になるけれども、硫黄島のあの有名な旗を揚げている写真を出すことによって、予算カット、人員カットを免れているほどだ。
 この激戦に端的に示されているように、補給を絶たれ島に立て籠って抵抗を続けた側は、攻めてきた側にたとえ甚大な損害を与えても、結局は全滅させられてしまうのである。

◆日本の防衛は「海洋主義」が要

 ここから日本が学び取らねばならないのは、日本の防衛は海軍が全て責任を負うべきであり、すべて海で決着を付けねばならないということだ。これを学問的には「海洋主義」と言うが、要するに、現在日本が採用している「専守防衛」のように、敵の侵攻を国土内で一方的に待ち受けて抵抗するのではなく、できる限り日本の領土から離れた海洋(海上・海中・上空)に国防線を設定して、敵をこの国防線で叩くということだ。
 海で全て決着を付け、陸には絶対に持ち込まないという発想は、実はもう日清戦争の後に海軍の方では持っていた。日露戦争の時の海軍大臣、山本権兵衛はこの考えを採用して、大海軍建造計画を作った。しかし、山県有朋の陸軍閥の方が力が強く、予算をかなり削られ、そうした状態で日露戦争に突入した。結果的には、日本は勝利したけれども、海軍戦略の面から言うと、非常に際どい戦いであったと言える。実際、日本の連合艦隊が全て出動して、日本の周りには全く船がない状態だった。だから、ウラジオストックからロシアの巡洋艦が三隻、日本の沿海部に出現したとき、日本の国民は大パニックに陥ったという事実もある。
 日露戦争後、山本権兵衛は総理大臣にまでなり、いよいよ海軍中心に日本の軍備を固めようと思ったが、陸軍閥に阻まれ、さらにシーメンス事件という疑獄事件を起こされて失脚した。その後、海軍中心というシステムはついに日本には定着せず、結局、日米戦争に突入して行った。
 日米戦争でも、日本の海軍力は全然足りなかった。フィリピンのレイテ沖海戦で日本の連合艦隊が全滅した時点で、もう既にアメリカは完全な勝利を収めていたのだ。もう一つ、日本が見落としていけないのは、日本の海上補給路、東南アジアから日本に物資を運ぶ海上補給路を完全にアメリカの潜水艦によって絶たれてしまったという事実だ。
 このように、過去百年間に日本が関わった戦いから導き出されるのは、日本という国は、海の守りが弱いと必ず国が立ち行かなくなるということだ。海の守りを万全にするということが、本来日本が採用すべき国防の原則なのだ。日本の周辺海域やシーレーンの安全が確保されなければ、経済活動は成り立たない。その意味で、日本は海洋中心の軍備を構築しないといけない。海洋というのは、海上だけでなく海中も上空も入る。つまり、海洋国家日本の軍備とは、海上自衛隊と航空自衛隊が主体でないといけないということになる。ところが、日本のシステムは、予算も人員も全て陸上自衛隊が中心になっている。それで本当にいいのか。

◆ミサイル防衛の限界

 次に、近い将来、日本が直面するであろう脅威を念頭に置いて、まず弾道ミサイル攻撃について考えてみたい。
 日本の軍事評論家は、核弾頭を積んでいる弾道ミサイル(核ミサイル)に比べれば、通常弾頭を積んでいる弾道ミサイルはそれほど被害が大きくないということをよく話す。しかし、それはあくまでも核弾頭と比べた場合の話であって、たとえ通常弾頭であっても甚大な被害を蒙るということを知らねばならない。
 具体的に、日本を直撃する可能性がある弾道ミサイルを想定してみると、まず中国の東風21型という中距離弾道ミサイルがある。これは日本全土をその射程内に収めている。先日、中国は自国の衛星を撃ち落とす実験に成功したが、この衛星を撃ち落としたのがこの中距離弾道ミサイルである。
 もう一つは北朝鮮のノドンだ。ノドンの場合は非常に原始的なミサイルで、命中率は非常に悪い。しかし、これは実は始末に負えない話だ。つまり、どこに落ちるかわからないのだから、対日攻撃を掛けた場合、無差別攻撃に近い状態になるからだ。しかも、ノドンの場合、弾頭に積む爆弾は五百ポンド爆弾四発分に相当する。五百ポンド爆弾が一発落ちると、半径十メートルから二十メートルほどの巨大な穴が空く。相当な被害が生じるのだ。
 ましてや、中国の東風21型は命中率が高く、狙った所に相当の被害をもたらす。通常弾頭であろうと核弾頭であろうと、中国の弾道ミサイルは日本にとって相当な脅威である。
 この様な危険な弾道ミサイルだからこそ、アメリカは一生懸命、ミサイル防衛(MD)を言っている。しかし、MDがあれば敵の弾道ミサイルの脅威から守ることができるかというと、そうではない。もし日本がそのように考えていたら、非常に危険だ。
 理想論としてはミサイル防衛システムは非常にいい。本当に飛んできたミサイルを百発百中で全部打ち落とせれば、こんなに良いことはないし抑止力にもなる。しかし、今作っているのは「何の役にも立たない」と、実は彼ら自身が認めている。アメリカの軍や議会の中には、「MDはもう金の無駄だからやめろ」と言う声も相当ある。また、アメリカの場合は、例えば中国、北朝鮮あたりから弾道ミサイルが発射されても、届くまで二十分、三十分という時間がかかる。ところが日本の場合は五分から七分、あっという間に届く。
 おまけにアメリカの場合は、その間に少なくとも五段階ぐらいの防衛策を取ることが出来るが、日本の場合は二段階しかない。イージス艦に積んだミサイルと、後はPAC―3だ。PAC―3は、防衛範囲が狭く、自分の基地の周りしか守ることが出来ない。だから、ミサイルを撃つ側としては、初めからそこに撃つことは考えられない。つまり、日本の場合は事実上イージス艦による防衛システム一段階しか防衛策がないということだ。
 あるいは、次善の策として、「敵基地攻撃論」というのがある。相手のミサイル発射装置をみんな破壊してしまえる能力を持つことによって、中国なり北朝鮮なりのミサイル攻撃を阻止しようという考えである。この考えが出たのは昭和三十年代だが、今は当時とは違い、トレーラーの様な大きな車両にミサイル発射装置を積んでいる。従って、それを破壊するためには、二十四時間体制で北朝鮮なり中国の満洲の方を常に警戒監視していなければならない。また、航空部隊も常にどこかに空中待機していて、日本に対してミサイルを撃つ兆候があったら攻撃しなければ意味がない。これは日本が戦闘攻撃機を持っていたとしても、技術的には不可能だ。

◆日本は巡航ミサイルを持て

 MDも「敵基地攻撃論」も役に立たないとすれば、ではどうやって対抗するのか。端的に言えば、万が一の時は相手を徹底的に破壊できる報復力を持つということだ。
 これは軍事的によいだけではなく、外交的にも非常にいい影響がある。結局、対北朝鮮外交にしても、なめられた状態になっているのは、日本に対して何を言っても、何をやっても、日本は何も手出しできないと彼らが分かっているからだ。どこの国でも、そのような無惨な状態にならないために軍事力を持っているわけで、軍事力の後盾がなければ、外交は機能しないというのは当たり前だ。まったく目新しい話ではない。
 具体的なオプションとしては、一つは日本も弾道ミサイルを持つということが考えられる。しかし、現実に日本が自前で弾道ミサイルを持つことができるかというと、能力の面から見るだけでも厳しい。はっきり言って、日本の能力・技術は中国に比べておよそ十五年ほど遅れている。中国ほどではないが北朝鮮に比べてもかなり遅れている。世界最先端の技術力といっても、日本の場合は自動車や半導体といったレベルで、飛行機でさえもう三十年以上造っていない。ましてやハイテク技術の結晶である宇宙開発分野では、ようやくH2ロケットを打ち上げられる程度の能力しかない。これでは話にならない。またこれを急遽作れと言っても、五年や六年ではなかなかできないだろう。
 あるいは、弾道ミサイルを他国から輸入するというオプションも考えられるが、現実に弾道ミサイルを輸出してくれる国はどこにもない。強いて言えば、北朝鮮ぐらいだが、これは勿論不可能だ。
 では、可能なオプションは何かというと、長距離巡航ミサイルをアメリカから買って配備するということだ。アメリカは有名なトマホークという長距離巡航ミサイルを日本に輸出したがっているし、同盟国に長距離巡航ミサイルトを配備するということは彼らの戦略にも非常に合致する。しかも、海上自衛隊にはトマホークを撃つ能力はもう現に備わっている。日本がトマホークを積んで報復攻撃をするということになれば、中国や北朝鮮に対して相当の抑止力を示すことができる。

◆中国、原子力潜水艦の脅威

 他方、今度は逆に、長距離巡航ミサイルを保有している国が日本を攻撃することも当然考えられる。一つはロシアであるが、長距離巡航ミサイルを搭載した潜水艦が日本に対して威圧を加えるような行動は、過去何年もずっと起きていない。
 それに代わって、中国が日本に威圧を加えるという恐れが非常に高まっている。現在中国が建造している原子力潜水艦は、長距離巡航ミサイルを積んでいるという情報がある。この攻撃目標は当然日本しか考えられない。射程距離は千二百キロから千八百キロといわれているから、もし中国の原潜が日本の太平洋側に出てくることができるようになれば、日本に外交的な威圧を加えることが可能になる。
 それをさせないためには、中国の原潜が西太平洋に出ようとしたとき、日本はそれを捕捉・追跡して、いろんな音を出して攻撃しなければならないが、向こうが原子力潜水艦で来るならば、やはりこちらも原子力潜水艦でなければとても太刀打ちできない。
 中国の原潜の水中での速力は三十五ノット、ロシアの原潜は四十ノット以上。これに対して、日本の潜水艦はディーゼルで、二十五ノット程度。つまり、現状では中国の原潜が出てきた場合、追いかけることさえできない。日本もそろそろ原潜の導入を始めないと手遅れになってしまう。
 また、現在日本はディーゼル型の優秀な潜水艦を持っているけれども、残念ながら数が十六隻と限定されている。これでは日本の海峡を守るだけで精一杯で、全然足りない。専門家の試算によれば、日本周辺海域の防衛には三十隻以上は必要である。聞くところによると、海上自衛隊が防衛省を通じていくら増やしてくれと言っても、財務省がうんと言わないという。枠が決まっているのだと言って頑として応じないという。日本では財務の論理が先に進み、防衛の論理がなかなか理解して貰えない。しかも、この枠があるお陰で、日本の潜水艦は十六年毎にスクラップにして、また新しいのを造るという勿体ないことをしている。原子力潜水艦ではない通常潜水艦でも、ふつうは二十年から二十五年ぐらいは使えるから、これは却って財源の無駄遣いになっている。
 ちなみに、国連の常任理事国は全て原潜の保有国である。原潜を持つということは国連の常任理事国になる際に非常に強いファクターになると思う。やはり国連常任理事国入りを目指すインドは、原潜の開発を既に十年前から進めていて、間もなく完成する。

◆シーレーン防衛を強化するには

 日本が原子力潜水艦を持てば、シーレーンの防衛にとっても非常にプラスになる。エネルギーのほとんどを中東に依存している日本は、ペルシャ湾から日本に向かってのオイルシーレーンを防衛しないといけないが、「一千海里シーレーン防衛」という何十年前の構想以降、全然新しい構想が出ていない。
 おまけにこれまでシーレーンを守ってきた米海軍の力が、当該地域では相対的に落ちている。それとは逆に中国がどんどん海に進出してきてプレゼンスを高めている。例えば、中国海軍は現在ミャンマーにも海軍基地を建設している。
 アメリカ海軍は海上自衛隊がインド洋で補給活動を何年もやっていることを評価しているが、それは油を貰っているという理由もあるが、インド洋に日本の軍艦が常に浮かんでいるということは、中国海軍に対する牽制になるからだ。もし日本が原子力潜水艦を持って、インド洋に常に二隻くらい配置すれば、「シーレーンを妨害するものは許さない。万が一何か日本の船に対して何かやった場合は報復する」というメッセージを送ることができる。原潜は二ヶ月くらいずっと海の中に潜ったままで活動できるのでそれができる。
 さらに、シーレーンの防衛に関していえば、原子力潜水艦を持つといった武器の話も大切だが、より大切なのはインド、シンガポール、マレーシアといったシーレーンの周辺国と同盟関係を作らなければいけないということだ。また、同盟を結ぶにあたっては、海軍力をどう使うかということを念頭においた同盟でなければいけない。特にマラッカ海峡辺りでは海賊が頻繁に現れているが、海上自衛隊が直接出て行くということはできなくても、同盟関係を大いに活用しなければならない。
 海賊というと、どこにも属さない海の盗賊が自由に活動しているというイメージがあるかもしれないけれども、どこかの国の海軍が力を貸していなければ絶対できない。どこの国が力を貸しているのか、あえて言わなくても分かると思う。海賊の問題は、もはや警察権や漁業権の段階ではなく、軍事的な問題としてとらえなければならないと思う。

◆海洋戦力を中心に、自衛隊を再編せよ

 最後に、今日の話をもう一度整理すると、弾道ミサイルの問題、巡航ミサイルの問題、シーレーンの問題、これに全部絡んでいるのは結局のところ中国ということだ。
 現在、中国が進めている国家戦略、軍事戦略は海に向かっての進出だ。それに対して、日本は海洋国家になっていない。中国にとっては非常にくみしやすいのだ。おまけに日米同盟を分断することによって、簡単に東シナ海、南シナ海を自分の海にできるという発想で出てきている。千島列島から日本列島、台湾、フィリピン群島、セレベス島の東海岸海域に至る第一列島線という所まで進出し、次にアメリカ海軍に圧力をかけて千島列島から小笠原諸島、グアム、マリアナ諸島へと至る第二列島線、つまり西太平洋にまでアメリカを押し戻す。中国内部の論文などをみると、二〇五〇年までには西太平洋とインド洋でアメリカ海軍に絶対に大きな顔をさせないという構想をもって海軍力をつけている。
 日本は、中国が原子力潜水艦や弾道ミサイル、長距離巡航ミサイルのような兵器を持っているだけで、相当威圧されてしまう。それに押しつぶされないためには、日本は報復力を持つことによって相手をある程度威圧しないといけない。日本が一番手っ取り早く保持できる報復力・抑止力は、アメリカの長距離巡航ミサイルだ。しかも、中国はすでにそのことに気付いている。米国内では中国ロビーの活動がすごい。日本にだけは売らせまいとしている。日本は早く交渉に入らないといけない。
 また日本は、国防予算を増大するわけにはいかないので、自衛隊の再編成をやっていくしかないのではないか。最初に言ったとおり、陸上戦力中心の体制から、海軍+空軍の海洋軍事力中心の体制に切り替えなければならない。
 純軍事的には、これは当然の話で、戦車とか銃砲とか大きな装備を持った軍隊というのは今の日本には必要ない。兵員も現在は十五万人だが、私と米海兵隊有志の試算によれば、今の日本にとって必要な陸上兵員は最大見積もっても七万五千人。ちなみに、米海兵隊は二十万人、カナダ軍は二万人、オーストラリア軍は二万五千人だ。必要な陸上戦力は、ヘリコプターまたは小型艇で機動力を十分発揮できる少数精鋭の特殊部隊だ。そうした陸上戦力に再編成することによって予算を削減し、浮いた分を海軍力・空軍力の増強に振り向けないと、中国に対抗し切れなくなる。
 一番恐ろしいのは、実際に戦って勝つか負けるかという以前に、日本が能力の面で負けてしまえば、強大な軍事力を背景とした中国に嫌でも屈服せざるを得なくなるということだ。中国は文民統制の歴史が長く、古来、戦争を如何にしないで相手を脅しつけて屈服させるかという戦略をとってきた。私の見るところ、このまま推移すれば、今から五年後の二〇一二年には、中国の海洋戦力は日本のそれを圧倒することになると思う。

(質疑応答)
●議員 危機感を非常に大きくした。質問が三つほどある。一点目は、現在日本の潜水艦の枠が十六隻で、その枠があるがゆえに却って財源の無駄遣いになっているという話をもう少し詳しく知りたい。二点目は、原子力潜水艦を持つためにはどういう山を越えなければならないか。三点目は、陸上自衛隊を少数精鋭にすることについて、陸上自衛隊自身はどういう考え方を持っているのか。
北村 まず十六隻枠の問題だが、この枠がなければ古い潜水艦も壊さずに済む。今は自動車にたとえれば、買って数年でスクラップに出して、また新車を買うという非常に勿体ないことをしている。先程も述べたように、現在日本を取り巻く状況から考えると、最低でも三十隻程度の潜水艦がなければ日本は守れない。しかし、三十隻程度の潜水艦というのは意外と簡単に持つことができる。というのは、古い潜水艦を壊さずにそのまま使えばいいのと、日本の場合は世界でも珍しく国内の二社が潜水艦建造技術を持っている。現在この二社が一年おきに交代して造っているので、これを毎年造るようにすればいい。
 さらに言えば、二社がフル稼働して潜水艦を造れば、一隻辺りの値段も当然下がる。仮に艦が余った場合、一番いいのは台湾に持って行くことだ。アメリカは台湾に八隻の潜水艦を供与するという約束をしている。しかし、アメリカは原子力潜水艦を作れてもディーゼル潜水艦は作れない。だから、どこから八隻を渡すかということで苦慮している。ドイツやフランスからアメリカが買って渡すということも考えられるが、ドイツ、フランスは中国に潜水艦技術を入れている。これは問題があるので、一番いいのは日本から買うことではないかと言われている。要するに、安全保障の観点からも、財政の観点からも、今の十六隻枠というのは実に馬鹿げたことだと言わねばならない。
 二点目の原子力潜水艦の問題は、まず技術的な問題として、日本が急に作れるわけではない。また、アメリカから買うというのもなかなか難しいが、一つ秘策がある。ロシアから買うことだ。ロシアは今売りたくてしょうがない。ただし、根本的にはやはり日本の核アレルギー、軍事アレルギーの問題を克服しなければならない。原子力という名前が付くと何でも核兵器と同じだと考えて反対運動が起きる。あと原子力潜水艦の原子炉は、非常に安全だということはもっと広く知らせた方がいい。ロシアの原潜は事故を起こして映画にもなったが、あれは極めて特殊なケース。アメリカの場合は六十隻程度の原潜が常に活動しているが、事故はほとんどない。その辺りは、教育の問題にも絡んでくると思う。
 三点目の陸上自衛隊の問題だが、オフィシャルの見解は措くとして、戦車の訓練とか砲兵の訓練を実際やっている隊員の中には、何のためにやっているのか意義が見出せないと言う人もいる。また、実際問題として、富士の演習場にある戦車を新潟の方に持って行くとしても、道がない。荷重五十トン以上に耐えられる橋もない。ましてや北海道に行くときは、製造メーカーが一旦分解したものを運んでいって向こうで組み立てるという現実で、いざとなったら全く役に立たないような状況がある。
●議員 中国は「戦わずして勝つ」ことを目指していると言うが、中国が日本を上回る戦力を持つようになれば、どのような形で日本に圧力をかけてくると考えられるか。
北村 例えば、シーレーンを脅かすというシナリオは十分考えられる。中国が南シナ海で日本の船を通れなくした場合、日本へ向かう船は、フィリピンの沖を回らなくてはいけない。そうすると物資の輸送日数は三日ほど余計にかかり、船一隻あたりおよそ一億円も負担が増える。日本経済にとってはもうそれだけでも大打撃だ。おまけに南シナ海の場合には、別に原潜を使わなくてもいい。ボロ船だけで中国が「やるぞ」という態度を示せばできるほど中国のプレゼンスは高まっている。
 且つ中国が原潜で自由に航行できるようになると、インド洋で日本向けのタンカーに対して接近するなりして圧力を加えれば、日本へ向かう船は保険料だけでも跳ね上がってしまう。そうすると船員の報酬も上げないと、日本の船には乗らなくなる。しかも、今は日本の船といっても、昔のような「日の丸商船隊」ではない。乗組員の九割以上はフィリピン人など外国人だ。だから、そうした危険な状態になれば、何も日本のために危ない船に乗らなくてもよいではないかということにもなる。
 このように、シーレーンを脅かして日本を締め上げ、場合によっては「止めて欲しかったら、日米安保条約を破棄しろ」といった交渉に出てくることもあり得る。またその際、弾道ミサイルを一、二発日本に撃ち込む可能性も捨てきれない。中国が日本に対してミサイルを打つ能力があることは当局とか専門家は分かるけれども、日本の国民一般に「中国は恐いんだよ」ということを示すには、どこかに撃ち込むのが一番分かりやすい。日米安保があるといっても、核弾頭でなければ一発や二発撃っただけではアメリカも報復しないだろう。それは中国も分かっている。
 そういうシナリオが現実のものとならないためには、日本は長距離巡航ミサイルという報復力・抑止力を早く持たなければならない。また、強力な海洋戦力でもって日本周辺海域とシーレーンの制海権を確保し、もし中国の艦船・潜水艦が日本の周辺に近寄ったら追いかけ回して、自由に泳がせないことが肝要だ。海上自衛隊がそれぐらいやらないとどうにもならないだろう。(文責・正しい日本を創る会事務局)