◆はじめに
一貫して軍事力を拡大しつづけている中国にどう対処するかということが、アメリカを含めてわれわれ周辺国家にとって大問題となっている。特に来年の北京オリンピック開催後、あるいは三年後の上海万博の後、世界の世論を気にしなくなった中国が、強大な軍事力で台湾に対して何をするかということが最大の問題になってくるだろう。
一方、民主党のクリントン政権とは違い、ブッシュ政権は中国に対して断固たる対応を取るはずだったが、結論的に言うと、今日の第二期ブッシュ政権は第一期の最初の一年とはガラッと態度が変わった。すなわち、今のブッシュ政権はダブル・デターランスの立場に立って、中国には台湾海峡で軍事力を行使するなと主張する一方、台湾には独立を主張するなと言っている。
一体、どうしてブッシュ政権はこのように変わってしまったのか、その辺の問題を私なりに整理して述べてみたい。
◆第一期ブッシュ政権当初の対中姿勢
まず、第一期当初のブッシュ政権はどういう考えだったのか、四つのことを指摘したい。 一つ目は、中国に対して厳しく、台湾に対して同情的だった。例えばクリントン政権の対中政策は、「戦略的パートナーシップ」を謳っていたが、ブッシュ政権は「戦略的競争相手」という表現を使うようになった。対外関係で一番いい関係は同盟国で、第二が戦略的パートナーシップ、第三が戦略的競争相手である。関係が悪くなると潜在敵国となり、最後に敵国となる。つまり、ブッシュ政権は中国に対する評価を二番目から三番目に下げたと言える。だから当時、ブッシュの対中政策は厳しいぞ、とわれわれは予想した。
二つ目は、クリントンは「三つのNO」と言ったが、ブッシュは、「三つのNOは言わない」と表明した。「三つのNO」とは、「二つの中国はNO」「台湾の独立はNO」「台湾が国家として国際機関に入るのはNO」を意味する。この言葉は、クリントンが政権末期に中国を訪問した際、上海で行ったスピーチの中で述べたものだが、これに対して、共和党は非常に反発した。ブッシュ大統領は就任早々、「クリントンが行った対中政策に自分は賛成しない。三つのNOは言わない」と述べた。
三つ目は、ブッシュ政権がスタートした直後、南シナ海上空で見張っていたアメリカの偵察機に対して中国の戦闘機がスクランブルをかけて、一機が接触事故を起こして海中に墜落した。その時の衝撃で、アメリカの偵察機も海南島に合法的に不時着したが、中国は二十五人の乗員をそこへ一カ月ほど閉じ込め、機体の検査を行ったらしい。その時、タカ派のラムズフェルド国防長官は、ワシントンにいる外国人記者をペンタゴンに集めて、「中国は国際法違反をやっている。この国はとんでもない国だ」と演説をぶった。結局、アメリカは、機体を中国に残したまま、二十五人だけを取り戻したが、これで米中関係に大変険悪な状況が醸し出されることとなった。
四つ目は、この事件の後、台湾政府がアメリカから武器を買うと表明した。具体的には、P3C対潜哨戒機十二機、ディーゼル潜水艦八隻、それからキッド級駆逐艦四隻を買うと言ったのだが、これに対して中国は非常に激しく反発した。
◆なぜブッシュ政権の対中姿勢は変わったのか
以上四つの問題が相次いで起こったため、米中関係は険悪化するのではないかと私は思ったが、ところがその後ガラッと変わってしまった。その背景を四点述べたい。
まず一つ目の背景は、ブッシュ政権が発足した八カ月後に、九・一一同時多発テロが起こった。これにより、アメリカには通常戦争――とりわけアジアで中国に対してどう対応するかという戦略の他に、もう一つより大きな戦略が加わることとなった。つまり、国際テロリストとどう対決するかという問題である。
その時、中国の唐家センは小泉首相よりも早く訪米し、ブッシュ大統領に、「新疆ウイグル自治区は、イスラムからのテロリストが流入している地域であり、中国はテロリストの情報を持っているので、共闘しませんか」と述べた。これによって、ブッシュ大統領の中国に対する敵視的態度がかなり緩和した。つまり、テロリストという「共通の敵」ができたことが、米中関係改善の第一の要因となったと言える。
二番目は朝鮮半島の問題。ブッシュ大統領は二〇〇二年の一般教書演説で、「悪の枢軸」の冒頭に北朝鮮を挙げ、それからイラン、イラクの順で 三つのけしからん国があると批判した。しかし、アメリカはイラクを叩く準備はしていたが、北朝鮮問題はうっとおしく感じていた。そこでブッシュは同年、六カ国協議を考案し、当時レイムダックだった江沢民をテキサスの別荘に招き、「六カ国協議を開催する時は中国にお世話になる」と述べた。つまり、これは中国がキープレーヤーになってくれと言う話で、北朝鮮問題を中国に半ば丸投げしたとも言える。これが第二の米中接近の要因となった。
◆「中国=ステイク・ホールダー」論の背景
第三に、一昨年九月、当時国務副長官だったゼーリックが、米中の貿易関係者が集まる大きな団体の総会で、「ステイク・ホールダー」という有名な表現を使い、中国は国際社会のステイク・ホールダーであると述べた。この言葉は当時、インターネットやファックスや電話などでワシントンと北京との間で飛び交ったが、今でもキーワードとなっている。これは要するに、「賭けを取り仕切る責任ある立場の人」とか「掛け金を持つような、管理的なプレーヤー」などを意味する。日本の新聞協会は、「利害関係者」と訳し、産経新聞は「利害保有者」と訳している。
問題は、この発想がどこから出てきたかということだ。このステイク・ホールダーという言葉が出る前に、実は『フォーリン・アフェアーズ』(七、八月号)――これはニューヨークの外交問題評議会が出している、世界で一番権威があると言われる外交雑誌だが――に、中国の超大物スポークスマンの鄭必堅という人が、「和平崛起」という論文を書いた。英語では、「ピースフル ライズ オブ チャイナ」、つまり「中国の平和的台頭」というタイトルだ。
そこで彼が何を言ったかと言うと、要するに中国は弱い国だと述べた。中国経済は強大になったと言われるが、GNPでは日本の何分の一かに過ぎない。また人口抑制しているにもかかわらず、人口はどんどん増えており、間もなく十五億になる。この対策だけでも大変であるのに、湖沼の七十%が汚染され、飲料水にも注意を要する。さらに「貧富の格差」は広がる一方で、去年一年間に八万件の暴動が起こった。不満があちこちに起きている。その一方で、経済がどんどん拡大していけば、世界中から石油を吸い上げなければいけない。
また、今のような経済成長率を続けていかなければ、国内の反体制派が台頭してくる。実に今の中国は困難な立場に立たされている――ということを鄭必堅は述べた。
おそらく、アメリカのホワイトハウスや国務省の戦略家たちは、中国がこのような「弱み」を吐くことを待っていたと思われる。そこでゼーリックは、この論文をきっかけに、中国にいわば「救いの手」を差し伸べたのだろう。アメリカは中国を見放さない。だからお前たちもあまりトラブルメーカーになってくれては困ると。ゼーリックのステイク・ホールダーという言葉は、こうした背景から出てきた言葉なのである。
その後、靖国問題が日中間の大問題になった際、ゼーリックが東京に来て、谷内外務次官と会って、歴史検証の委員会を作ったらどうかと提案した。歴史認識問題などで、日中両国がトラブルを起こさないようにして欲しいというのは、ゼーリックの本心だったのではないかと思う。
ゼーリックは昨年五月に下院の国際関係委員会で、「台湾は民主主義国だからわれわれは支持はするが、独立には反対する」と述べた。「独立は戦争を意味する」と彼は言うのだが、どうして独立が戦争を意味するのか、私には分からない。
後でも触れるが、中台関係の専門家であるジョン・タシックは、これは中国が発明した言葉(チャイニーズ・インベンション)だと批判している。が、ゼーリックの主張がどうも常識になってしまったようで、日本人の中にも台湾独立は中国に介入の口実を与えると危惧する向きは多い。
◆「オーバー・コミットメント」への疑心暗鬼
アメリカの対中姿勢が変化した四つ目の背景として――私は依然ブッシュ政権を支持してはいるが――同政権にはオーバー・コミットメントしたという印象がある。例えば、イラクには二万二千人の増派を決定していたが、さらに三千人を増派した。ブッシュはおそらくバグダッドの治安は意地でも維持するつもりだろう。
また、これから問題となるのがイランである。アメリカは今まで何回かイランに対する直接的な軍事行動をとっているが、イランを攻撃するかもしれないというサインをちらちら出して、イランを追いつめ始めている。イラン内部で反体制派が決起して、後押ししてくれればいい、というのが今のブッシュ政権の最大の関心事ではないか。
さらに、アメリカは六カ国協議に関して、北朝鮮と二カ国の接触はしないという立場を自ら破った。そればかりか、マカオのバンコ・デルタ・アジアに対する金融制裁の全面解除やテロ支援国家指定の解除も検討し始めている。これらの動きが、金正日に何を暗示するかを考えれば、拉致問題にとっても深刻な問題だが、いずれにしても、こうしたアメリカの動きは、アメリカがいかに世界に手を広げ過ぎているか、ということを示している。
ポール・ケネディというイエール大学の先生が今から十数年前、『大国の興亡』という本を書いた。世界的ベストセラーとなったこの本の中で、ケネディは、国家がオーバー・コミットメント、つまり体力以上の仕事に手を付けた場合、必ずその国家は綻び始めると説いた。ギリシャ、ローマ時代からの事例を挙げてそのことを証明したのが、『大国の興亡』である。
もともとアメリカは民主党、共和党を問わず、オーバー・コミットメントを非常に嫌がってきた。ただしその一方で、アメリカには「民主主義の総本山」というイデオロギーがあるため、時々ミス・ジャッジメントを犯す。今ブッシュは、イラクは一番でやるけれども、国家全体としてオーバー・コミットメントを犯しているかも知れないという疑心暗鬼にとらわれ、これが朝鮮半島をめぐる一貫性の欠けた対応に現れているのではないかと思われる。六カ国協議を江沢民に丸投げしたのも、オーバー・コミットメントを極度に警戒する気持ちが現れていたのではないか。
ともあれ、こうした背景があって、ブッシュ政権は何か事があると、台湾の独立と中国の軍事介入の両方をダブルで抑止するようになったと考えられる。
◆台湾自身にも問題がある
とはいえ、台湾自身にも問題があることも指摘しなければならない。数週間前、アーミテージが国務副長官だった時に国務次官補代理だったランダル・シュライバーが東京に来て、アメリカン・センターで講演を行った。その時、やはり彼は台湾の独立と中国の軍事行動をダブルでアメリカは抑止すると言った。実はその講演の前に彼と話す機会があったが、アメリカは台湾(陳水扁体制)にも非常に腹を立てていると語っていた。どういうことかと言うと、一つ目は、陳水扁は中国に接近するような態度で独立を語っており、一貫していない。また、彼の身内からも汚職をやる人間が出てきている。こういう陳水扁体制をわれわれは信用できないと言うのである。
二つ目は、冒頭で述べたように、台湾はアメリカの武器を買うと言ったが、野党に反対されて未だ実現していない。つまり、国と国との約束を台湾は破っているわけだ。アメリカは国家間の約束を国内事情で破ったりすることを嫌がる国である。最近、沖縄に関する久間防衛相の発言をチェイニー副大統領が嫌がったのも、これと同じ理由である。
そして三つ目は、中国は八九年以来、前年比二桁増の軍事予算の増加を今日に至るまで一貫して続けている。実際の軍事予算の数値はその二倍から三倍というのが世界の常識である。また中国はいかなる国内の事情があろうとも、核戦略と海洋戦略と宇宙戦略の三つの戦略を変えていない。
本来、こうした中国の軍事力強化を一番気にすべきは台湾のはずだが、その台湾はブッシュ政権になってから一度も軍事費を増やしていない。むしろ減らしている。それで、中国にやられそうになるとアメリカの責任だと言う。自分で自分の国を守ろうともしないのに、こちらに尻拭いをさせるなよ、という反感が実は今のアメリカの底流にあるという話を私は聞いている。これはアメリカからすればむしろ当然のことだろう。
日本でも著名な金美齢さんと私は長年の付き合いがあるが、金美齢さんなどもやはり「独立論を言うとすぐアメリカは反対する」とか「ブッシュ政権はダメね」などと言っている。だが、そうした単純な話ではどうもないのではなかろうか。つまり、自ら戦う意志のない国をアメリカは助けますか――という話なのだ。ブッシュ政権には民主主義外交、価値観外交という側面が確かにあるが、以上のような理由から、台湾に対してはいい感じを持たなくなりつつある、ということをわきまえるべきである。
◆「台湾はアメリカの防衛線」という考え方も浮上
では、今のアメリカには台湾や日本にとっていい材料はないかと言うと、決してそうではない。例えばジョン・タシックは最近、「American stake in Taiiwan」という立派な論文を書いた。その中で彼は、先に触れたようにゼーリックが、「independence means war」と言ったことに対して、どうして独立を言うと戦争になるんだ、中国の脅しにまんまと乗せられているだけではないか、と批判を述べている。もしこれが事実なら、中国は次に、「尖閣で日本が突っ張ると戦争になる」と言うかもしれないが、その場合、アメリカは日本に尖閣を放棄しろと言うのかと。そうなると、同様の個所がアジアには十何個所あるから、これが全部中国領になってしまうが、その一番大きい入り口が台湾であると。結局、「独立イコール戦争」と言うのはデマであり、このデマにアメリカが乗せられた場合、どれほどアジア全域に重大な影響が起こるかは分からない――とタシックは言うのだ。
私は、おそらくこうした考えが、今後のブッシュ政権にどんどん浸透していくだろうと思う。これは単なる希望ではない。実際、ゼーリックはすでに事実上のクビになった。ただし、まだ「ステイク・ホールダー」という言葉はペンタゴンの白書にも残っている。この言葉が消えてしまえば、タシックのような考え方に変わって行くのではないか。
また、タシックはもうアメリカは台湾がどうのこうのと公言せず、黙ってアメリカ軍部の高官と台湾軍部の高官との交流をやるなど、既成事実を積み上げてしまったらどうかと言っている。さらに、アメリカは台湾にP3Cやイージス艦などの高価な防衛用の兵器を売るのではなくて、一定の条件を付けて攻撃用の武器を与えたらどうかとも言う。
そもそも武器と言うのは、値段から言うと、攻撃用が一番安い。防衛用の武器は、攻撃を防ぐために色んな工夫をしなければならないから高くなる。ところが、台湾は防衛用の武器ばかり買うから予算が足りなくなる。だから、大変性能の良い、ピンポイントで攻撃できるような武器を備えたらどうかということを彼は言っている。
それからタシックは――私は一番これを伝えたいのだが――マッカーサーが日本の占領中に朝鮮戦争が起こった時、朝鮮半島は敏感な所だと痛感すると同時に、台湾をユーラシア大陸に属すると見るか、それとも太平洋に属する島国国家と見るかによって、アメリカの安全保障上、重大な相違が出てくると認識した、ということを述べている。
すなわち朝鮮戦争が始まる前、当時のアチソン国務長官は、アメリカはアリューシャン列島から日本列島、沖縄、フィリピンに至るまでのラインを守ると述べた。いわゆるアチソン・ラインであるが、そのアメリカが守ると言った防衛線には台湾は入っていなかった。また朝鮮半島を外したことが北朝鮮に暗示を与え、北の攻撃が始まったと言われている。そこで、マッカーサーはアメリカの防衛線に台湾をはっきり入れると明言したというのである。アメリカの防衛線に入れないと、アメリカの安全保障自体が崩れてしまうからだ。こうした事例を挙げて、台湾がいかに重要かをタシックは結論付けている。アメリカと台湾は民主主義の価値観や市場経済でも一致しており、台湾はあくまでもアメリカの防衛線であると。
実は日清戦争が始まる直前、井上毅が広島の大本営に、同じ内容の建白書を送っている。シーレーンの中心である台湾をどんなことがあっても日清戦争に勝って取らなければならない。台湾を取った所がアジアの覇権を握る国になる。だから、どうしても日本が台湾を持たないといけない――と記している。私も日中関係の核心は台湾をどちらが取るかの話だと思っている。地政学的に言って、どちらが台湾に影響力を持つかということによって、勝負は決まってくるからだ。
今のアメリカのゲイツ国防長官は、常にジオポリティカルに物を考える人なので、おそらくタシックの考え方とピタッと合うのではないかと思われる。だから、われわれにとってもまだまだ希望はある。
◆「民主主義の拡大」というブッシュの戦略
ところで最近、麻生外相が「自由と繁栄の弧」ということを語っているが、私は初めて日本でも外交に戦略的思考が出てきたと思っている。実は、ブッシュの二期目の目玉は、まさにこれと同じである。もっとも、ブッシュはより大きなスケールで述べており、それを少し縮小した形で、ブッシュに協力するようなストラテジーが麻生構想だと言える。
ブッシュは二〇〇五年一月、二期目の大統領就任演説で、民主主義を拡大しなければいけないと強調した。それはなぜかというと、民主主義は戦争ができにくいシステムだからである。これはもともとカントが「恒久平和論」の中で言ったことであるが、ウッドロー・ウィルソンも第一次世界大戦の時、民主主義国が多くなると、戦争がしにくくなると語った。これをブッシュは受け継いでいると思われる。
むろん、これについては、ブッシュの勝手な単独行動主義であり、他国に民主主義を押しつけるのはけしからんという見方もある。しかし、これはそんな単純な話ではなく、そこには重大な意味がある。
例えば一昨年十一月、ブッシュは京都に来て演説し、八十回ほど「民主主義」とか「自由」という言葉を使って、民主主義の重要性を語ったが、彼はその一方で、日本とアメリカは同じ民主主義だが、二つの点で異なったシステムであるとも述べた。一つは、アメリカは大統領だが日本は内閣総理大臣。二つ目は、アメリカには皇室はないが、日本には国民の尊敬を集める皇室がある。しかし、同じ民主主義で仲良くやっている同盟国ではないかと。これはなかなか泣かせる文句だと思う。つまり、俺はユニラテラリズムによって民主主義を強制しているわけではない。日本を見てみろ、というわけである。
この後、ブッシュは北京を訪問したが、胡錦濤は日本に引け目を感じたようだ。というのは、京都演説の民主主義の部分を新華社通信は配信しなかったからである。むろん、嫌だから送らなかったわけだが、「言葉のミサイル」がいかに痛烈であるかを示している。
さらにブッシュはモンゴルのウランバートルで、大変感動的な演説を行った。すなわち、「十六年前のこの国会議事堂の外は大変寒い日だったが、そこに自由を求める人たちがどんどん集まり数千人になった。数千人の人たちが、口々に一党独裁反対を叫び初め、選挙を伴う民主主義を求めた。その六カ月後、お国には見事に選挙を伴う民主主義が実現したが、その時ハンストを行った若い学生の一人が、ここにおられる首相閣下である」と。満場の拍手が起こった。モンゴルはわずか二百五十万の人口だが、中ロに接する戦略的な要衝であり、二百五十人の精鋭部隊をイラクに送っている。
ブッシュはインドも訪れて、「インドは最も人口が多い民主主義国家であり、両民主主義国が握手をすれば、世界の安定に大変な威力になる」と述べた。このようにアメリカは、中国の周りを民主主義国家で取り囲んでいるとも言える。
一方、今から四年前、日本にトランスフォーメーションの話が出てきた時、ペンタゴンは「不安定の弧」という言葉を使った。これはアフリカ東部から、中東、南アジア、東南アジアを通って朝鮮半島に抜ける地域を指すが、国際テロリストへの対応という観点から、アメリカは全世界的な軍の配備を「不安定の弧」の周辺に集中させる方針を打ち出したのである。
この「不安定の弧」の周辺にどう対応するか――。アメリカは民主党といえども、ユーラシア大陸の大きな脅威になる国は中国であるとの認識を持っていると思われる。確かに経済面で中国はステイク・ホールダーであり、同じ歩調をとってもいいが、中国の「爪と牙」の部分に対してはいささかも油断がならないという認識である。
この中国に対してどうするかということを考えると、軍事的に日米の戦略的意見を一致させ、台湾海峡の平和と安定を維持し、同時にNATOからアジアにかけて、「道義のミサイル」を放ち、ユーラシア大陸の不安定化を防がなければならない――。これがどうも今日のアメリカの政策のようだと私は考えている。
《質疑応答》
●質問 今、米国下院で慰安婦決議が問題となっているが、これに関する意見をうかがいたい。
○田久保 第一に、この下院決議は、アメリカが中国、韓国などと一緒になって慰安婦問題を非難しているのではなくて、あくまでアメリカにおける特殊な人々が、これに乗っているという話である。
第二に、この動きに対して日本の在米大使館は、日本は河野談話の枠内ですでに謝ったと弁明して、問題を解決しようとしてきたが、これは大変なミスだった。加藤大使はようやく数日前、下院の外交委員長に会って、決議案の中に事実の誤りがあると初めて言ったが、それに対してアメリカの新聞は、根本の問題を日本は謝っていないと言い出した。
私は、河野談話は修正すべきだと考える。また河野談話の枠内でも、「決議」は事実ではないことをもっと主張すべきだと思う。
また、一般論として慰安婦はいけないという主張に対しては、かつて米軍が何をやったかを明らかにすべきだ。神奈川でも占領下には二十五個所に慰安所があった。例えば毎日新聞の編集局長だった住本という人の終戦秘話の中には、米兵がジープ何台かで丸の内警察へ来て、「女を出せ。出さなきゃここにいる女をみんな連れて行く」と言ったことや、それに驚いた警察署長が、吉原などに電話をかけて、プロの女性に助けを求めたということなどが記されている。
さらに、私は沖縄に一年ほど住んでいたが、当時のコザには、黒人の歓楽街と白人の歓楽街があり、慰安婦がいた。つまり、慰安婦はアメリカ兵にもいたし、強制もあった。
一方、アメリカには良識がまだ残っているのも事実である。数年前、カリフォルニア議会が、戦時中に日本で捕虜になった元米兵らが日本企業などに補償を求めるための州法を作ったが、米最高裁はサンフランシスコ講和条約で決着済みとの判断を下した。当時、これを動かしたのは、アマコストやモンデールら日本に勤務した経験のある三人の大使であった。彼らは、第一期ブッシュ政権がスタートし、九・一一テロが起きた直後で、日本と一緒にテロと戦わなければならない時に、講和条約で決着した問題をなぜ今頃騒ぎ立てるのかと訴えた。これで世論がガッと動いた。
それ故、当時はアメリカの兵士も日本と同じようなことを行っていた事実、また日本軍による強制はなかったという事実などをアメリカの良識派に訴えていけば、下院決議案は覆すことができるのではないかと私は考えている。(文責・正しい日本を創る会事務局)